根岸の部屋

備忘録がてらに将棋(主にソフトとか角交換四間飛車とか)について書き殴ってます。棋力は絶賛伸び悩み中\(^0^)/ Twitter→@39th_theory

【floodgate】KKS_Nbook 名局選③ 居飛穴破り

 今回は角交換四間飛車居飛車穴熊を相手にした将棋をとりあげる。この戦型では上位ソフトはKKS対策として居飛穴を示すことはほとんど無く、また人間間でもプロアマ問わず居飛穴を採用されることは比較的少ない。なのだが、実際にやられてみると非常に嫌な作戦だと思う。漫然と駒組みを進めてしまうと、囲いでも攻撃陣でも居飛車側に劣る形になってしまうことになりやすい。組み上がってしまえば極めて優秀な形なのだ。
 にもかかわらず、ソフトの対KKSとしての居飛穴は評価が低い。なぜソフトは居飛穴をあまり評価しないのか。また、そのソフトは居飛穴攻略としてどのような作戦を提示するのか。一つのサンプルとしてこの対局を調べてみた。


【第三局】居飛車穴熊との戦い「gpsfish_normal_1c 」vs「KKS_Nbook3.2_i5_6200U」

gpsfish_normal_1c vs. KKS_Nbook3.2_i5_6200U (2017-02-15 01:30)

▲2六歩 △3四歩 ▲7六歩 △4二飛 ▲6八玉 △6二玉 ▲7八玉 △7二玉▲2五歩 △8二玉 ▲4八銀 △7二銀 ▲5六歩 △8八角成 ▲同 玉 △2二銀 ▲5七銀 △3三銀 ▲7八金

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 後手のKKS_Nbookは角交換保留型角交換四間飛車を選択。▲5六歩を見て角を交換した。「角交換に五筋を突くな」という格言があるように、角交換系の将棋ではここを突くと隙ができやすいのでここでの交換は自然。また、居飛車はまだ指したい手がいくつかあるのに対して振り飛車はこれ以上角交換を保留したまま待つ手が難しい。△9四歩などは▲9六歩と受けられたら、この交換が得になっているかがよくわからないので難しいところ。
 ▲7八金では▲7八銀などと左美濃を目指すのもある。というより、ソフトでもプロでもこのような局面では左美濃を選択し持久戦を目指すのが主流な感じがする。
 本譜は先手の穴熊志向が濃厚となった。対する後手の構想は。

△2二飛 ▲3六歩 △4四銀 ▲9八香 △5二金左 ▲9九玉 △9四歩 ▲8八銀

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 △2二飛と逆棒銀を見せた手に▲3六歩と▲3七桂の狙いを作って受ける。このとき5六の歩が△5五角のような手を防いでいるのがポイントである。このように△8八角成を▲同玉と取るタイプの持久戦は▲5六歩型との相性がよい。
 そこで後手は△4四銀。次の▲9八香に△3五歩とするのもある。以下▲同歩△同銀▲7七角△4四角▲同角△同銀▲9九玉が一例で一局。
 本譜の後手はひとまず待機の方針。先手陣がまとめにくいとみて、仕掛けの瞬間を虎視眈々と狙っているのだ。そして、図で後手が動く。

△6九角 ▲4八飛 △7八角成 ▲同 飛 △2四歩

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 △6九角がその仕掛け。▲4八飛は4七と7八を同時に受けるにはこれしか無い手。次に▲7九金などとされてはたまらないので△7八角成と切り、△2四歩と先手にボールを渡す。▲同歩は△同飛▲2八歩△2七歩となり得にならない。放置すればと金作りからの飛車成りを狙うのが地味にはやいし、▲同歩△同飛成は手順に先手陣を侵食していく展開にできそうだ。従って先手はここでこれを放置して動くしかない。しばらくは先手の攻め、後手の受けという展開になる。

▲4六角 △2五歩 ▲7五歩 △9二玉 ▲7四歩 △同 歩 ▲同 飛 △7三歩 ▲9四飛 △8二玉

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 ▲4六角から▲7五歩とコビンを狙うのがこれしかない逆襲。この攻撃をまともに食らってはその瞬間ゲームセットだ。△7一玉では▲7四歩からのごり押しが受からない。△9二玉とこちらに香にひもを付けつつかわす。居飛車穴熊でかつ▲9七歩型ゆえ端攻めがやや遠いのも好材料で、案外一押しがない。逆に言えば、ここまで見越していたから△6九角を決行したということでもあり、少し形が違っていれば後手が倒れていたかもしれないということでもある。
 さて、図での先手の指し手は。

▲2三歩 △同 飛 ▲9一飛成 △同 玉 ▲7四歩

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 一発叩いてから▲9一飛成とばっさり切っていった。迫力ある攻めである。代えて普通に▲7四飛も有力で、飛車を逃がしてから再びのコビン攻めが狙い。それを食らってはたまらないので後手は角を追ってから二筋を間に合わせに行く展開となりそう。
 上図を迎えて、後手はどう受けるのか。

△7八金 ▲7九香 △同 金 ▲同 銀 △8二玉 ▲6八銀引

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 受けずに△7八金が意表の手。次に△6九飛の厳しい詰めろがあるのでここで受けるか寄せきらないといけない。①▲7三歩成△同銀に(1)七筋に歩や香を打つのはかわすくらいで手にならない。(2)▲同角成△同桂▲7四歩の強襲はやはり△6九飛が厳しい切り返し。以下▲7九香△同金▲同銀△同飛成▲8八角△7四竜▲9三銀△8一銀(変化図は下)▲4四角△9二歩▲1一角成△9三歩で僅かに届かない。

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 そこで本譜の②▲7九香と攻防っぽく打つことになるが、さっぱり交換してしまう。駒損するが、香が消えた方が受けやすいということだろうか。▲6八銀引とすることになり、結局先手は攻めきることはできなかった。

△2二飛 ▲7五金 △7一玉 ▲7三歩成 △同 銀 ▲9三角 △同 桂 ▲7三角成 △7二金 ▲7四歩 △6一玉

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 まだしばらく後手は辛抱が続く。△2二飛は形を直した手。9一の香は既に盤上に存在せず、相手に取られる駒が少なくなった以上、後手はこの囲いに残ることに執着する必要は無い。安全な左辺に向かっての逃避行だ。

▲4六馬 △7一香 ▲7三銀 △同 金 ▲同 歩成 △4五銀打 ▲2八馬 △9五角

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 ▲4六馬に対する△7一香でしっかりとと金作りを受ける。△4五銀打から△9五角は浮かびにくい手順。△7三香と△7八歩が厳しい両狙いだ。

▲7二金 △同 香 ▲同 と △同 玉 ▲5九金 △2六歩 ▲9六香 △2七歩成 ▲9一馬 △6八角成 ▲同 金 △6一玉 ▲9三香成 △5一玉 ▲7三馬 △4二玉

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 だんだん局面が分かりやすくなってきた。役目を果たした角を△6八角成と見切るのは印象深い。最終手まで、見事に脱走を完了させた。

▲8八銀 △3八飛 ▲9五馬 △1八と ▲3七桂 △3六銀 ▲1八香 △2九飛成 ▲7七馬 △1八飛成 ▲8三成香 △8六歩

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 以下は辛い寄せを見るばかり。図の△8六歩は上手い効かし。▲同馬は△7九銀、▲同歩は△8七歩▲同銀△8八歩。

▲7八金 △7一香 ▲7二歩 △6九銀 ▲3八歩 △同 龍寄 ▲7九金 △7八金 ▲7六金 △7九金 ▲同 銀 △7八金

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 △7一香で歩を使わせてから銀を掛ける。もはや物理的に受からない。

 

▲1五角 △3二玉 ▲7一歩成 △7九金 ▲8八金 △7八銀成 ▲同 馬 △同 龍

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 完全必死が掛ったこの局面で先手gpsfish_normal_1cが投了した。

 

 ▲5六歩としてから居飛車穴熊を目指すのは隙ができやすく、居飛車がまとめづらい将棋となり、その脆弱性を上手く後手が突いたといえる。居飛穴なのに固めづらく、振り飛車からの手作りの手段は少なくないので、特に不満はない展開だと思う。

 今度は違う形の居飛車穴熊を相手にした将棋を調べてみる、かもしれない。角交換四間飛車最大級のメリット、「居飛車穴熊にされにくい」を決して手放さないためにも、今後も不断の努力が要求され続けるのだろう。