根岸の部屋

備忘録がてらに将棋(主にソフトとか角交換四間飛車とか)について書き殴ってます。棋力は絶賛伸び悩み中\(^0^)/ Twitter→@39th_theory

【KKS破りの】角交換四間飛車対策動画への対策① 先手KKSについて【破り】

 先日、某強豪将棋系Youtuberの方が「角交換四間飛車対策動画」なるものを投稿された。詳しい内容は動画に譲るが、要所をかいつまむと

 

居飛車は▲4六歩から▲5六銀とし腰掛け銀の形に組むのを目指すのが大前提。

振り飛車の指し方には腰掛け銀に組ませないような狙いを秘めたものがある(後述)ので、その場合は適宜それに対応した手待ち・駒組みをすることでやはり腰掛け銀を目指す。 

③無事腰掛け銀に組めた場合、振り飛車側の陣形ごとの基本的な仕掛け方。

 

となっている。それぞれもう少し詳しくみてみよう。

 ①については細かい解説はあまりいらないだろう。ここ数年、角交換四間や類型のダイレクト向かい飛車に対する主流の対策は▲4六歩からの腰掛け銀型となっている。振り飛車からの仕掛けを防ぎつつ自玉を十分堅くできるため、KKS等に対して相性がよいということがわかったためである。細かい内容は「角交換四間飛車破り 必勝ガイド」(石田直裕五段著・マイナビ)などの書籍に詳しい。

 ②の振り飛車の「腰掛け銀に組ませない」指し方とは何か。実は一年ほど前に本サイトで紹介した内容とほぼ同じものとなっている。

negishiroom.hatenablog.com

  この記事の内容は雑に言えば「早めに玉を7二まで移動させないと居飛車に腰掛け銀型を許すため、玉の移動を優先し左銀の動きを保留するべき」というもの。これにより振り飛車側は優秀な腰掛け銀型に容易に組ませないという主張を得ることが出来る。

 ただし、この記事にはひとつ但し書きがそえてある。第一図の▲5八金右が居飛車の有効手であるという点である。

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 この手の狙いは将来的に▲4七銀と立ったときにこれにひもをつけようというもの。△8二玉なら▲4六歩が成立する。以下△4四歩なら▲4七銀で、△4五歩には▲同歩△同飛▲3六角があるため成立しない。もしここで▲5八金右が無いと△4二飛で、4七銀が浮いているため次に▲6三角成と成り込めない(第二図)。

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 例の動画では、第一図で▲2五歩△3三銀の交換が入っているもののほぼ同じ局面で▲5八金右が推奨されている。また先程あげたKKS側の工夫の左銀保留の手順も紹介されている。関連性があるかどうかは分からないが、一年前の記事と似た内容が動画で紹介されている。そして、動画ではここで▲5八金右とすることで腰掛け銀に組めるとされている

 関連性は不明とはいえ、よく似た内容が紹介され、しかもその内容が私の主張(居飛車は腰掛け銀には容易に組めない)及び権益に反するものだった。これは黙ってはいられないと思い、いまこうしてキーボードを叩いている次第である。

 

 動画を一通り視聴した感想だが、とても優れた内容であると感じた。居飛車の理想的な陣形を紹介した上でそれへの的確な組み方を紹介し、作戦勝ちに導いた後の仕掛け方の例を十分な数、しかも1ツリーあたり複数の狙い筋を紹介している。居飛車にとって勝ちやすい形・誘導しやすい形にすることで勝ちやすさや理解しやすさを向上させているとの工夫も感じられた。振り飛車の主な形はだいたいおさえている。KKSに悩んでいる居飛車党の方々には自信をもっておすすめできるだけのクオリティと思う。実際に動画には居飛車党の歓喜の声やKKS党の悲痛といった反応がみられる。

 だが実のところ、この動画が公開されても私はあまり困っていない。この動画を視聴して角交換四間対策を勉強した方が対戦相手になったとしても私はさほど困らないだろう。私にとってKKSは主力戦法であるのに、だ。

 なぜか。理由はいくつか挙げられるのだが、それはまたいずれ。

本稿ではまずひとつ、「この対策動画の内容は、先手番角交換四間には有効にならない」という点を紹介したい。

初形より、▲7六歩△3四歩▲6八飛△8四歩▲4八玉△4二玉▲2二角成△同銀▲3八玉(第三図)

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 第三図は先手角交換四間飛車の想定される基本図。先の記事の通り、振り飛車は左銀を保留しているのがポイント。振り飛車が先手の分居飛車の手が一手立ち遅れているのがこの後どう響くか。

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第三図より、△8五歩▲8八銀△3二玉▲7七銀(第四図)

 手順中の△8五歩および△3二玉はのちの飛車先交換を目指した手なので、どちらかを指されたら飛車先に備えて順次▲8八銀(▲7八銀)~▲7七銀と上がっていかねばならない。これを怠ると飛車先の受けが間に合わず、△8六歩と歩交換を許してしまう。そして第三図まで進むと居飛車は腰掛け銀には容易に組めなくなっている。ここで△6二銀としても先手は堂々と▲2八玉と入れる。△6四歩なら▲6六歩△6三銀▲6五歩(第五図)で振り飛車十分である。以下△同歩▲同飛に△7四角が不成立になるのは第二図周辺で解説したとおりである。

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 腰掛け銀に組めなかった居飛車は、もう少し駒組みの手順を工夫する。

第三図以下、△8五歩▲8八銀△6二銀▲2八玉(第六図)

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 居飛車の右銀が立ち遅れていてはそもそも腰掛け銀には組めないので、玉の移動を保留して△6二銀と上がる。振り飛車は△8五歩に対する▲8八銀はやはりセットだ。そして第六図は居飛車は腰掛け銀には組みにくい局面だ。やはり6三の利きの数が足りないので△7四角が打てないからだ。

 居飛車は△3二玉を保留して一手稼いだのにやはり腰掛け銀が間に合わなかった。なぜなら振り飛車側もそれに呼応して▲7七銀を省略しているからだ。▲7七銀は飛車先交換を防ぐための手である、しかし4二玉型のままなら、例えば第六図で△8六歩▲同歩△同飛とされても▲7七角があるので、▲7七銀と上がる必要性がそもそもない。このあたりは先の記事でもほぼ同様の内容を解説したと思う。

 居飛車は△3二玉を保留する工夫を見せたが振り飛車にも▲7七銀を保留し返され、手を稼ぐことは結局できなかった。

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第三図以下、△3二玉▲8八銀△6二銀▲2八玉(第七図)

 △3二玉ではなく△8五歩を保留してみたが、先程と同様の対応で問題ない。居飛車の飛車先交換の準備が整うまでの手数の条件が同じのためだ。このあたりまでは先の記事の内容におさらいに近い。

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第三図以下、△6二銀▲8八銀△5二金右(第八図)

 次なる居飛車の工夫は飛車先交換の要件の△8五歩と△3二玉の両方を省略だ。代えて△6二銀~△5二金右と6筋を手厚くしてくる。そして第八図まで進むと、実は居飛車が腰掛け銀に組める形になってしまっているのである

 第八図から囲うなら▲2八玉が普通だが、△6四歩が成立する。以下▲6六歩△6三銀に▲6五歩なら、6三への利きが足りているので△同歩▲同飛△7四角が成立するのは既出の通り。どうしてこうなったのか。

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第三図以下、△6二銀▲2八玉(第九図)

  なぜ居飛車の△6四歩が間に合うようになったかというと、実は▲8八銀と上がる手が余計だったから。△8五歩も△3二玉も保留されているなら、左銀は7九のままでも居飛車の飛先交換は間に合わない。△8五歩か△3二玉のいずれかを指されたらそこで▲8八銀、もう一方も指されたら更に▲7七銀とするのが正しい。この銀は不用意なタイミングで動かしてはならない。

 という訳で第三図から△6二銀のタイミングでは、▲8八銀と上がる必要性はなかった。ここでは代えて▲2八玉がよい。第九図の先手陣はやや奇異に写るかもしれないが後手は具体的にこれをとがめるのも難しい。一般に居飛車が腰掛け銀を狙って△6四歩とするのなら▲2八玉のタイミングしかないが、ここでは6三の利きが足りないので腰掛け銀は目指せない。また飛先交換も間に合わないし、△6五角のような手は▲3八銀△7六角▲8八銀で次に▲6六歩~▲6五歩と伸ばしていけば筋違い角の働きが悪く振り飛車不満ないと思う。かといって△5二金右など無難な手なら▲3八銀で収まる。

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第三図以下、△8五歩▲8八銀△6二銀▲2八玉△6四歩▲6六歩(第十図)

 最後に、居飛車が△6四歩のタイミングを工夫してきた例をみてみよう。まず第三図から△8五歩と伸ばす。これは飛先交換の下準備なので▲8八銀と上がらないといけないが、そこで△6二銀▲2八玉の交換を入れてから△6四歩がタイミング。▲3八銀などでは△6三銀~△5四銀が間に合ってしまうので▲6六歩(第十図)と突っ張るしかない。しかしこれだと一見8筋の守りが間に合っていないようにも見える。大丈夫なのだろうか。

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第十図以下、△8六歩▲同歩△同飛▲6五歩△3三角▲8七歩△8四飛▲6四歩(十一図)

 居飛車は隙ありとみて8筋交換する。もっとも、ここをスルーしてしまうと▲7七銀とされこれまで紹介した腰掛け銀失敗の図に合流してしまうので、何が何でも腰掛け銀に組みたいのであればここは妥協できないところ。△8六同飛に▲6五歩と反発する。△同歩などなら▲7七角が厳しくなるのが居飛車が4二玉型で仕掛けたことの泣き所。ただし単に△8二飛などと先逃げするようでは▲6四歩と取り込んで振り飛車大満足なので、△3三角と打って先手でこれを防ぐ。大して振り飛車側も▲8七歩と当て返してから6筋を取り込んで第十一図。

 ここで△5二金右なら▲7二角または▲7七桂(第十二図)で振り飛車指せそうだ。なお代えて▲6三角と単にかちこむと△6七歩で切り返される。また、第十一図から△6七歩なら▲7八飛と耐えておいて△6四飛には▲8二角としておけば居飛車忙しい。そこで△6八歩成▲同金△6六歩は▲5八金右で耐えている。さらにそこから△6七歩成とし、▲同金右△同飛成▲同金△9二金と角を殺すのは、▲9一角成△同金で居飛車が金香交換の駒得をし一本とったようだが実はそうではない。▲7七銀(第十三図)と形を直して△6九角のような嫌みを消しておけば、歩切れのため後の▲6六香が受けにくい。第十三図での双方の大駒の働きも、先手は▲6八飛とすれば後手歩切れのため6筋の開通路を止めにくく十分働きそうなのに対し、後手は3三角に活を入れにくい上、持ち駒の角を使おうにも、△6九角には▲4八飛△8七角成▲8八歩がある。よって、実は第十三図は振り飛車有望である。

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第十図以下、△8六歩▲同歩△同飛▲7七角△8二飛▲6五歩△3二玉▲6四歩(十四図)

 第十図以下の振り飛車側の選択肢をもうひとつ。第十一図までの手順中の▲6五歩にかえて▲7七角(下線部・ここが分岐点)と先にこのラインに据えてから▲6五歩とする。これにより、先程のように居飛車から△3三角と打たれるのを防いでいる。2二の銀取りを防ぐために△3二玉と寄るが、第十四図までやはり六筋の取り込みに成功した。

 以下、△4五角の返し技があるが(▲7九金は△8七歩)、▲7八金△同角成▲同飛△6七金▲2二角成△同玉▲8三歩△同飛▲5六角(第十五図)で、簡単ではないが①6七の金は7八の飛車を取れば逆モーションになるため働きが悪くなる、②▲8三角成が金当たりになる、③6四の歩の存在が大きいため振り飛車持ちといえるだろう。どこか▲5六馬と引く手を攻防手にするようなイメージである。

 第十一図と第十四図、好きなほうを選ばれるためなおさら居飛車はこの変化には突っ込みにくいだろう。

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 という訳で、右金を上げてから腰掛け銀に組もうという居飛車の狙いは先手角交換四間飛車にはそもそも成立しない。では後手角交換四間飛車ではどうなのだろうか?大人しく腰掛け銀に組まれるしかないのだろうか?それについてはいずれまた。