根岸の部屋

備忘録がてらに将棋(主にソフトとか角交換四間飛車とか)について書き殴ってます。棋力は絶賛伸び悩み中\(^0^)/ Twitter→@39th_theory

【floodgate】KKS_Nbook 名局選① 1号局

 最近、floodgateに「KKS_Nbook~」という名前のソフトが放流されている。KKSの名の通り主に角交換四間飛車を採用するもので、執筆時の6月21日現在、合計400局ほどの対局がこのアカウント名で行なわれたようだ(手元の簡易データベース調べ。もしかしたらもう少し多いかも)。第27回世界コンピュータ将棋選手権(WCSC27)以前のFloodgate上での角交換四間飛車の採用はほとんどがこのソフトによるものである。

そしてWCSC27でコンピュータ将棋間では不利とされていた振り飛車を主戦に戦うHoneywaffleが決勝進出したが、このHoneyWaffleが後手番で主に採用したのが角交換四間飛車である。それの搭載していた定跡の手順などをみるに、KKS_Nbookの影響を受けているのは確かなようだ。

 本稿では、このKKS_Nbookの棋譜を紹介する。ソフト流のKKS、そして振り飛車感覚をお伝えできるように努力していきたい。

 

【一局目】KKS_Nbook一号局。天敵▲47銀型を撃破 「gps_l」vs「KKS_Nbook3.2_i5_6200U」

 

http://wdoor.c.u-tokyo.ac.jp/shogi/view/2017/02/13/wdoor+floodgate-300-10F+gps_l+KKS_Nbook3.2_i5_6200U+20170213213003.csa

 KKS_Nbookの初代であるKKS_Nbook3.2_i5_6200Uの第一号局である。3.2とは定跡の型番のようなものであろうか。

 将棋は後手を引いたKKS_Nbook3.2_i5_6200Uが順当にKKSを採用する。

初手から、

▲2六歩△3四歩▲7六歩△4二飛▲6八玉△8八角成▲同 銀△2二銀▲7八玉△6二玉▲4八銀△3三銀▲2五歩△7二玉▲3六歩△8二玉▲5八金右△2二飛▲4六歩△7二銀▲9六歩△9四歩▲4七銀

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 まずまず普通の進行だ。ただし8手目△2二銀は感心しない。先手gps_lは次に▲7八玉としたので事なきを得たが、ここでは▲4六歩という手があり、居飛車に4七銀型の好形を許してしまう。ここは代えて△6二玉とすべきところだろう。詳しい手順は別の記事で紹介する。

※6/22追記:これの意味を以下の記事で解説した 。良ければこちらもあわせてお読みいただきたい。

negishiroom.hatenablog.com

 

さて、実戦例はこの図の局面で△4四銀が多いが、このあたりで定跡が切れたらしい後手の指し手は△3二金。当時の主流ソフトであるバランス型好みの浮かむ瀬のような手で、恐らく当時のKKS_Nbook3.2_i5_6200Uは浮かむ瀬評価関数を積んでいるものと思われる。

 ただし、この手はあまりいい手ではなく、形を決めすぎの緩手だろう。後手は△2四歩▲同歩△同銀としても▲3七桂で止まる以上銀を3三に留めておく理由はない。△3二金は2~3筋方面に勢力を回し、▲3五歩や▲7七角といった手に備え「次に△2四歩としますよ」風味を見せた手なのだが、本譜の次の▲3七桂で完全に2筋が受かってしまうのであまり意味が無い。まだまだ定跡も評価関数も作りの甘さが見られる。

 上図から、

△3二金▲3七桂△4四銀▲4五歩△6四角

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▲4五歩に対し△6四角と切り返す。▲3八飛は割打ちの傷がのこるため、飛車浮きで対応する。

 

▲2七飛△5五銀▲6八金上△4六銀▲同 銀△同 角▲1六歩△3三桂▲4七銀

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後手は銀をぶつけて打開を図る、筆者好みの“攻めるKKS”。先手は▲6八金上とした手がパスに近く、図からの後手の攻めを招いた。

 

△2六銀▲同 飛△3七角成▲2九飛△4七馬▲同 金△3八銀

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流れるような手順が決まり後手好調。居飛車の玉形は壁銀でもあり、金を取ってから△4五桂と使う展開にしていきたい。

 

▲2八飛△4七銀成▲2七飛△4六成銀▲8六角△6四桂▲7七銀△4五成銀

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最終手△4五成銀では△4五桂でどうだったか。本譜ははっきりしない展開になった感がある。

 

▲3五歩△同 歩▲6六歩△5四金▲9五歩△同 歩▲同 香△同 香▲同 角

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△5四金と使わされるのでは嫌な感じである。ここで△5五成銀は▲3七飛と使う手があるようだ。

先手は端から強く打開しに行く。

 

△9一香▲8六角△9七歩▲同 桂△9六歩▲8五桂△8四歩▲9二歩△同 香▲9三歩△同 桂▲同桂成△同 香

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相手の攻めを呼び込んで強く受ける。ソフトの振り飛車にはよく見られる展開で、玉頭から攻めるだけ攻めさせてからギリギリの見切りで凌いで勝つ将棋が実に多い。美濃囲いが崩壊することが前提の将棋のつくりで、人間の振り飛車党が好まない展開かもしれない。HoneyWaffleの開発者は「いまのソフトの振り飛車居飛車党に無理矢理飛車を振らせているだけのようなもの」と発言していたが、そのことを想起させる特徴である。

 

▲9五香△同 香▲同 角△9七歩成▲8四角△7一玉▲9三角成△6二玉▲3四桂△2一飛▲8六香△4四成銀

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美濃囲いを放棄して左辺に逃げ込む。最終手の△4四成銀とここまで成り駒を引きつけて強く催促する。9七のと金が大きいので攻めを余してしまえば後手が良くなる。

 

▲9八歩△9六と▲8二香成△3四成銀▲8五銀△8一歩▲7二成香△同 金▲9六銀△9一香▲7五馬△9六香

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▲9八歩は△同となら△9五桂が無くなるという意味。しかし△9六とと香取りに引かれるといまいちだった。さらにこの歩のせいで△9一香が強烈となっている。

 

▲6五銀△7四銀▲同 銀△同 歩▲同 馬△9八香成▲8三銀△7三金▲9五角△7一香▲2九飛△5二玉

 

f:id:Negishi_Shinya:20170621010528p:plain

着実に後手が優位を拡大する。図の△5二玉が印象深い手。7三の地点を放棄してさらに左辺へと撤退するのが手堅い。

 

▲7三角成△同 香▲同 馬△4五角▲6九玉△5五桂▲7四銀不成△4二玉▲4六歩△3六角▲5八金打△6七銀

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これではっきり寄り。以下程なくして先手gps_lが投了した。

 

KKS_Nbookが下位のソフトを相手にする棋譜は相手のありがちな悪手をうまくとがめて勝つ将棋になることが多く、ある意味高レート帯どうしの棋譜よりも参考になることがある。上位ソフトどうしだけの棋譜だけを眺めるだけでなく、上位と下位の棋譜を見て、下位の悪手を調べてみるのもいいと思う。

 

 これからもKKS_Nbookの棋譜を紹介する。時には他のソフトの棋譜も紹介するかもしれない。筆者のやる気の赴くまま続けていこうと思う。