KKS小ネタ② KKS拒否型対策・自己流振り飛車穴熊
研究と呼べるほどではなく、既出かもしれないので小ネタとしてカテゴライズした上で執筆・紹介してみる。
角交換四間飛車が出始めのころ、これをやられるのを嫌がる居飛車党の一部が使っていたのが以下の手順。
初形から、
▲2六歩 △3四歩 ▲7六歩 △4二飛 ▲4八銀 △6二玉 ▲6六歩 (第一図)
▲6六歩と角道をとめて角交換を拒否し、相手のペースで戦われるのを拒否する指し方である。一旦▲4八銀と上がってから角道を止めるのが重要で、これを省略して▲6六歩と止めると△4四歩▲4八銀△4五歩で後手の飛車先交換が受からなくなる。▲4八銀△6二玉の交換が入った本譜なら、同様に進んだとき▲5六歩~▲5七銀で受かる。私も昔よくやられた作戦だ。
この形には既に振り飛車にから見て有力な対策がいくつか見つかっている。居飛車の角交換四間飛車対策が進歩したこともあり、敢えて振り飛車不満なしになりやすいこの形を選ぶ居飛車党は少なくなっているが、それでもいまだに一部では指し続けられている。
本稿では、このKKS拒否型に対する振り飛車の対抗策をもうひとつ挙げてみる。従来型と比べて特段優秀な手法というわけでもないが・・・。ただ、私が使っている限りでは勝率は非常に高く、実戦的にも結構勝ちやすいと思っている。
第一図以下、
△7二玉 ▲6八玉 △8二玉 ▲7八玉 △4四歩
▲2五歩 △3三角 ▲5六歩 △4五歩 ▲5七銀 △3二銀
▲5八金右 △4三銀 ▲7七角 (第二図)
振り飛車は平凡に玉を右に移動させ、角道を止める。通常のノーマル四間飛車のようだが、居飛車の角道が既に止まっているため△4四歩~△4五歩と伸ばしていけるのが主張。これを生かしていけるような駒組みを目指していきたいところであるが。
最終手▲7七角の次の一手がその骨格となる。
第二図以下、
△9二香(第三図)
振り飛車穴熊を目指すのが私流の指し方。ついさっき“居飛車の角道が止まっているのを生かしたい”と書いたばかりだが、果たしてこの指し方でそれを達成できるのか。
さて、居飛車は▲6六歩としてしまっている以上持久戦にすることになる。ただし銀冠穴熊やミレニアムはこの歩との相性が悪そう。となると残された主な有力策は銀冠か居飛車穴熊となる。
そのうち銀冠を選んだ場合、従来からある四間飛車穴熊対居飛車銀冠と同じ形へと合流することになる。ただしこの戦型では、銀冠側が▲6六歩と止める手を保留して戦うのが有力とされているのだが、本譜の場合既に▲6六歩としてしまっているためそれを選べない。
参考図は進行の一例だが、振り飛車は△4五歩~△4四銀と好形に組んで十分主張のある形だろう。△4四銀型は攻撃力が高く、ノーマル四間飛車の理想型のひとつとしてよく知られており、四間飛車穴熊でもそれは例外ではない。ちなみに、これに簡単に組まれないようにするのが▲6六歩保留の構想だった(保留していれば△4五歩のとき▲3三角成で良し)。
以下の展開は既に多くの書籍で解説がなされているので割愛する。広瀬章人八段著の「四間飛車穴熊の急所(1)」(浅川書房)、佐藤秀司七段著の「とっておきの穴熊退治」(マイナビ)などが詳しいだろう。
さて、続いては居飛車穴熊の場合だ。実戦ではこちらを目指されることのほうが多く、本記事もこちらの解説が主である。
第三図以下、
▲8八玉 △9一玉 ▲9八香 △8二銀 (第四図)
本譜、居飛車はすんなり穴熊に組むことができそうである。当初角交換四間飛車志向だった後手に対し、ノーマル振り飛車に誘導し、しかも角交換振り飛車系の戦型なら普通組みにくい居飛車穴熊に組めそうとなれば、居飛車党としては満足そうな展開に見えるかもしれない。実際はどうだろうか。
第四図以下、
▲9九玉 △5二金左 ▲8八銀 △7一金 ▲7九金 △4四銀 ▲3六歩(第五図)
この第五図を見て、何か違和感を感じた方はいらっしゃるだろうか。通常の四間飛車穴熊対居飛車穴熊とは何かが違うのだ。
そう、どういう訳か四間穴熊側が△4四銀型に組めてしまっているのだ。普通ではありえないはずのことが起きてしまっている。
ここで、四間飛車穴熊対居飛車穴熊に関する基本的な知識を確認する。下図はこの戦型における基本図。
ここで振り飛車は△5四銀と上がるのが定跡(△9二香▲9八香の交換を入れずに△5四銀と上がる手もある)。これを怠って単に相穴熊に組み合ってしまうと以下のような局面となることが予想される。
これは居飛車の右銀(5七~6六~7七までくっつけられる)と振り飛車の左銀(5四~6三までしかくっつけられない)の位置の関係上居飛車の穴熊のほうが堅く、また2筋・3筋方面から仕掛ける権利を一方的に握っているのも居飛車のほうである。そのため振り飛車に全く主張がなく、互角のさばき合いになるだけで居飛車有利となってしまう。しかも仕掛けの権利自体、現状居飛車側が一方的に握っている。振り飛車にまっったく主張の無い局面なのである。
そのためでここで△5四銀と上がり次の△6五銀の歩取りを見せて▲6六銀か▲6六歩の受けを強要させ、スムーズに図のような展開に持ち込まれるのを防ぐのである。
つまり、居飛車穴熊対四間飛車穴熊の戦型では、振り飛車側は△5四銀と上がる手が必須であった。そのため第五図のような△4四銀型に組む権利は無いはずなのである。
しかし本譜では△5四銀の牽制を入れるまでもなく居飛車が▲6六歩と角道を止めている。そのため敢えて△5四銀と指す必要性が無い。よって△4四銀型に組むことが可能となったのだ。
銀冠の項でも述べたが 4四銀型は攻撃力の高さが持ち味である。相穴熊において攻撃力が高い≒主導権が握りやすいというのは大きなポイントで、実戦的な勝ちやすさが期待できる。一旦切れにくい攻めができてしまえば、あとは自陣の三枚穴熊の堅さがとてつもなく心強い展開となる。はじめに「実戦的に勝ちやすい」と書いたのはこのような理由があるからだった。
第五図以下、
△5四歩 ▲6八金寄 △6四歩 ▲7八金寄 △6三金 ▲1六歩 △5五歩 ▲同 歩 △同 銀(第六図)
第五図から第六図にかけては一例。第五図最終手▲3六歩は△3五銀と出る手の防ぎ。△5五歩からの攻めは振り飛車側の主要な狙い筋のひとつ。第六図以下▲5六歩なら△4六歩▲5五歩△4七歩成で振り穴大成功である。
第七図はこの戦法を採用した私の実戦譜。先手が私である。
先手は図の局面に至る途中で謎の手損をしてしまっているが、▲5五歩と仕掛けてどうかといったところ。△同歩▲同銀△5四歩では先程と同様に▲6四歩で手になるので居飛車の対応も難しい。
第七図以下、
△9五角 ▲5四歩 △4二銀 ▲9五角 △同 歩 ▲6四歩 △同 歩 ▲4一角(第八図)
本譜、後手は△9五角と動いていったが、5筋を取り込んでから角を取り、▲6四歩 ~▲4一角と技をかけて良くなった。▲6四歩のような手はとくに穴熊戦ではありがちな手筋である。
第八図以下、
△3一金 ▲7四角成 △8六歩 ▲6四馬 △7三歩 ▲4五歩 △7八角 ▲4九飛 △4五角成 ▲同 飛 △同 歩 ▲4四歩 △同 金 ▲5三歩成(第九図)
角成のあと、▲6四馬から▲4五歩と調子よく攻めていく。△同歩なら▲4四歩の叩きが入る。△7八角と打ってこの歩を払いにくるが▲4九飛とすれば△4五角成には▲同飛と切れば同様の狙い筋が成立する。第九図はと金をつくり守備金一枚の働きをおおきく弱体化させることに成功。駒損なしで手番を握り攻め続けられる振り飛車がはっきり良い。4筋が切れているため▲4三歩の垂らしがあるのも好都合で、本譜でもそれを実現させて着実に居飛車穴熊の堅陣を切り崩していった。穴熊攻略に一番有効なのはやはりと金攻めである。
以上、駆け足であるがざっくりと自己流振り飛車穴熊の狙いを解説した。これ以外にも有効なKKS拒否に対する振り飛車側の策は既にあるし、そもそも角交換拒否の指し方自体かなり少なくなっているのであまり価値のある記事ではないかもしれないが、どこかで何かのお役に立てていただければと思う。